6. 能力母数の推定方法

 

  5までで、IRTの概要について示しました。35で示したロジスティックモデルには様々な母数が含まれていました。IRTにおいては、被験者の解答パターンからそれらの母数を推定しなければなりません。各母数の推定は、まず項目母数を推定し、その項目母数の推定値を元に能力母数を推定します(既存のIRTソフトウェアではこの方法を採用)

項目母数の推定方法としては、条件付最尤度推定法(Conditional Maximum Likelihood Estimation, CMLE)、周辺最尤度推定法(Marginal Maximum Likelihood Estimation, MMLE)、ベイズ推定法(Bayesian estimation)、マルコフ連鎖モンテカルロ法による推定法(Markov chain Monte Carlo, MCMC)などがあります。また、能力母数の推定方法は、最尤度推定法(Maximum Likelihood Estimation, MLE)Expected A Posteriori(EAP)MCMCによる方法などがあります。さらに、項目母数と能力母数を同時に推定することができる同時最尤度推定法(Joint Maximum Likelihood Estimation, JMLE)があります。

以上のような統計的推定法を利用することにより、各母数を推定することができます。被験者と出題者が一番知りたい母数はなんといっても能力母数だと思います。そこで、ここでは、能力母数の推定方法を示します。ここで解説する推定方法は、3で紹介した2PLMMLEによる能力母数推定法です。

最尤度推定法について少し説明します。最尤度とは、Aという条件があったとき、Pという確率が得られるもっともらしさを表しています。つまり、2PLMにおいては、ある項目j(識別力a、能力母数b)に正答できた被験者の能力母数θの値のもっともらしさを求めようというのが最尤度推定法の仕組みです。そして、尤度が最も大きくなったとき(微分した値が最大になる→極大値→関数の傾きの頂点)の値を推定値として利用する方法なので「もっとももっともらしい推定法」という意味で最尤度推定法といわれます。以下から。MLEについて解説していきます。

 

MLEを行なうためには、項目母数が既知であるという条件が必要となります。2PLMにおける正答確率は式6-1のように表現できます。式6-1を説明しやすいようにと簡略化します。さらに、式6-1において単純化するために式6-2のように仮定します。

 

 

 ・・・ 6-1

 

 

 ・・・ 6-2

 

 

すると式6-1は以下のようになります。

 

 ・・・ 6-3

 

 

 また、誤答確率も以下のようにします。

 

 

 

 ここで、後述する対数尤度関数の変微分において利用すために、式6-3による変微分を示します。

 

 

 ・・・ 6-4

 

 

 被験者iの項目j(1,2,・・・,J)への反応行列を先述したようにとすることができます。このに等しくなる確率は、各項目に対する正答/誤答確率の積によって、以下のように表すことができるます。

  

 

 

 上の式は、そのままが未知の場合の尤度関数と見なすことができるので以下のように表現できます。

 

   ・・・6-5

 

 

 式6-5において対数尤度関数をとると式6-6のようになります。

 

 ・・・ 6-6

 ・・・ 6-7

 

 

6-7に関して1次変微分を行ないます。

 

 ・・・ 6-8

 

 ここで、式6-8について先に計算を行なっておきます。

 

 式6-4から

 ・・・ 6-9

 

 

6-9から

 ・・・ 6-10

 

 

 式6-8に式6-96-10を代入すると以下のようになります。

 

 ・・・ 6-11

 

 

 式6-111次導関数を0とおきについて解けば、の最尤推定値を得ることができます。しかし、式6-11を代数的に解くことは不可能です。そこで、ニュートン・ラフソン法による反復推定が利用されることが多くなっています。ニュートン・ラフソン法を用いる場合、2次導関数を導出することが必要なので、2次導関数を導いてみます。

 

       式6-9より

 ・・・ 6-12

 

 

 ニュートン・ラフソン法に基づくt+1回目の反復計算における更新式は式6-13のようになります。

 

 ・・・ 6-13

この式6-13に式6-116-12を代入すると、推定のために必要な方程式を得ることができます。この式6-13を収束するまで反復します。すると、θの値が求まります。

次回は、項目母数の推定方法について解説していきたいと思います。

 

 

参考文献

[1]Baker, F.B., & Kim, S. (2004). Item Response Theory: Parameter estimation techniques. Marcel Dekker Inc.

[2]村木英治(20062007).コンピュータ版テスト1013.人事試験研究.

[3]豊田秀樹(2004). 項目反応理論[理論編]―テストの数理―.朝倉書店.

 

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