2. 1母数IRTモデル
項目jの性質として最も基本となるのが、その項目がどれほど難しいのかという性質が重要です。この性質を現すのが困難度のみで表現できる1母数モデルです。1母数IRTモデルは、正規累積モデルとロジスティックモデルで表現できます。
1母数正規累積モデル(1 Parameter Normal Ogive Model)
正規累積モデルでは、統計学で最も頻繁に利用されている標準正規分布の密度関数(数式2-1)を利用します。 ・・・ 2-1 ※
数式2-1の累積分布関数は、以下の数式2-2で表すことができます。 ・・・ 2-2
ここで、を数式2-3とします。 ・・・ 2-3
数式2-2のを被験者iの項目jへの正答確率とし、1母数正規累積モデルを導出すると数式2-4のようになります。 ・・・ 2-4
1母数ロジスティックモデル(1 Parameter Logistic Model, 2PLM)
数式2-4の正規累積モデルは積分を含んでいことにより、計算が複雑になります。そこで、Birnbaum(1957)はロジスティック分布関数を利用したモデルを提案しました。 ・・・ 2-5
数式2-5のDはLord、Birnbaumによって導入された尺度因子であり、D=1.7のときθ全域にわたって累積モデルとの誤差が0.01以下になることが知られています。この近似は精度が高いので、テストの運営上区別なく利用することができるので、2PLMは以下の数式2-6のように表現できます。 ・・・ 2-6
テスト理論は、アメリカを中心に発達しました。アメリカにおいて1PLMは、1母数正規累積モデルの近似モデルで、後ほど述べる2、3PLMの下位モデルとして位置づけられている。しかし、デンマークの数学者Raschは1960年代初頭に1PLMを独自に提案し、発展させた。そこで、1PLMはラッシュモデル(Rasch Model)と呼ばれることも多いです。
ここで、各項目母数と被験者母数について解説します。項目母数aは後に書く2母数モデルにおいては識別力といわれ、項目ごとに異なっています。しかし、1母数モデルにおいては全て同じ値で定数a=1として扱われます。困難度は、数学的には-∞〜∞で定義されます。しかし、実際のテストでは-4.0〜4.0の範囲内で推定されます。この場合、値が小さい方が簡単で、大きくなればなるほど難しい項目だと定義されています。また、被験者母数である能力母数も数学的には-∞〜∞で定義されます。しかし、困難度同様、実際のテストでは-4.0〜4.0で推定される。能力母数は、値が小さいほど能力が低く、値が大きくなると能力が高くなります。さらに、は被験者iの項目jに対する正答確率を表しています。この正答確率は、0〜1で表される。一般的ではあるが、1に近づくにつれ正答確率が高いといえます。
ICC
ICCはItem Characteristic Curveの略で、日本語では項目特性曲線と訳されます。項目特性曲線は、数式2-4や2-6を横軸に能力母数、縦軸に正答確率をとりグラフ化したものです。
図2−1 1PLMのICC
図2-1から分かるように、ICCは単調増加の曲線を描きます。困難度が高くなるにつれてその項目のICCは右に偏っていることが分かります。また、1母数モデルでは識別力、つまりICCの傾きが1と仮定されているので全てのICCは平行線を描いています。
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